能楽とは
『能楽』は、室町時代に観阿弥、世阿弥によって大成され、江戸幕府の式楽として武家社会で栄え、その簡潔で集約された演技、演出による舞台芸術は、後世に長く受け継がれるべき貴重な文化です。
能楽は、台詞が「謡」という歌形式になっており、「囃子」といわれる笛・小鼓・大鼓・太鼓が伴奏をします。さらに、演者の舞台上での動作は、「舞」の形をとります。
他の近代劇の演技が、日常の動作をそのまま再現したり、多少、大袈裟に表現したりするのに対し、能楽では逆に極度に動作を抑え、最小限の動きで最大限の効果を発揮します。この集約された演技こそが本質であり、能楽の限りない魅力になっています。
能の流派
演技・声楽担当 | シテ方 | 観世流 |
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金春流 | ||
宝生流 | ||
金剛流 | ||
喜多流 | ||
ワキ方 | 高安流 | |
福王流 | ||
宝生流 | ||
狂言方 | 大蔵流 | |
和泉流 |
器楽担当(囃子方) | 笛 方 | 一噲流 |
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森田流 | ||
藤田流 | ||
小鼓方 | 幸 流 | |
幸清流 | ||
大倉流 | ||
観世流 | ||
大鼓方 | 葛野流 | |
高安流 | ||
石井流 | ||
大倉流 | ||
観世流 | ||
太鼓方 | 観世流 | |
金春流 |
登場人物の役柄
- シテ方が演じるもの
- シテ主役、能面を付ける。
ツレシテの補助的な人物。 - ワキ方が演じるもの
- ワキシテの相手役だがツレではない。能面は付けない。僧、武士、船頭、大臣等。必ず現実の人間の役である。
ツレワキの補助的な人物。 - 囃子方
- 能の楽器は四拍子と言い、笛、小鼓、大鼓、太鼓で演奏される。能の囃子は管楽器の笛に対して、小鼓と大鼓は複雑な間合で演奏される。三種の打楽器の中で、太鼓だけは等間隔のテンポで演奏される。この三種の打楽器の音色の違い、テンポの相違、かけ声の気合が、能特有の不思議な興奮と陶酔の音の世界を生み出している。
- 狂言方が演じるもの
- 間(アイ) 能の中の狂言方の役。前場が終わり前シテ等が退場した時、ワキに改めて物語をする。狂言独特の明瞭な発声法で観客にも能の筋がよく判る仕組みになっている。
装束・面(おもて)
能を演じる演者が着る衣装を能楽では、能装束または単に装束という。
能装束は、金襴、錦、緞子など最高の技術を活かした織物や刺繍、箔押しの豪華絢爛な装束と、反対に非常に地味な装束とがある。
能面は演者が役になりきるために用いられる。能面または面という。
面は女性、神仏、幽霊、鬼、精霊などになるときは必ず使用する。面の材料は、主に檜であるが、鬼の面や動きが激しく頭という重い髪をつける能などは軽い桐材を用いることもある。
囃子の道具
- 笛
- 能で使う笛は能管とよび、原型となっているのは雅楽の龍笛である。かん高い音と、メロディーより、リズムを主体とした演奏法が特徴である。
- 小鼓
- 生後二ヵ月から三ヵ月までの幼馬の皮が適するという鼓の皮は、温度と湿度に大変敏感で、皮を湿らせて微妙な音の違いを調節する。柔らかい音が出る。
- 大鼓
- 「おおかわ」ともよぶ。小鼓より丈夫で堅い。演奏前に、皮をあぶって乾燥させる。硬質の力強い音が特徴である。
- 太鼓
- 皮は牛革で胴には欅を用いる。囃子に太鼓が加わるとテンポが軽快になり、雰囲気が一変するが、太鼓の入らない曲もある。精霊や魂の役の登場時に用いられる場合が多い。
能舞台について
能舞台は京間の「三間四方」です。京間の一間は1.97ⅿですので5.91ⅿ。厚さ4.5㎝の檜板が17枚、縦に組み合わせてあります。
- ①揚幕
- 5色の揚幕は、竹の棒をそれぞれ両端に結んで、2人で持ち上げます。
- ②切戸口(きりどぐち)
- 切り戸口から地謡方や後見の方が出入りします。
※観客も注視していないので「忘口(わすれぐち」や、舞台の殺され役、斬られた役の人が退くところから「臆病口(おくびょうぐち)」ともいわれています。
※舞台に上がるときは、地謡方や後見の方など、左足から上がっています。
武士が切腹する時は右足から上がるので縁起が悪いからとか、武士は左足を前に踏み出すと刀が抜けないことからなどと、いわれています。舞台からおりるときは、「死人に足なし」でどちらからでもよいといわれています。 - ③橋掛かり
- 橋掛かりは鏡の間から始まっており、長さ13ⅿ、幅2.6mで、舞台は「すでに過ぎ去りし、あの世」で、この世とあの世をつなぐ橋として橋掛かりといいます。橋掛かりは、役者が出入りする通路であるとともに、舞台の延長として重要な演技空間でもあります。本舞台に対して108度の角度があります。
- ④鏡の間
- 橋掛かりの延長上に、大きな姿見の鏡が取り付けてあります。ここを鏡の間といいます。能装束(のうしょうぞく)を付け終わったシテが、かずら桶に腰をおろして、ここで正対(せいたい)し能面・面をつけて、これから演ずる役に変身して、精神統一を図る大事な場所です。
- ⑤シテ柱
- 橋掛かりと舞台の境にある柱をシテ柱といいます。ここの柱を目安に、シテは舞台に上がり、ここで必ず止まり全体を見渡し、この柱のやや前方の場所を、演技の起点・終点としています。
- ⑥目付柱
- シテは、能面・面を付けていますので、大変視界が狭くなります。舞い始めた役者(シテ)がここの柱に目をつけて、演技をする柱ということで目付柱といいます。
- ⑦ワキ柱
- ワキ方は、常にここの柱のそばに座って出番を待っていますのでワキ柱といいます。
- ⑧笛柱
- 囃子(はやし)の笛方はここの柱の側に座りますので笛柱といいます。笛柱の下から70cmの所に金輪がついておりますが、これは天井の滑車と連動して「道成寺(どうじょうじ)」という能の演目時に釣鐘(つりがね)を下げる綱の一端をとめるために使用するものです。
- ⑨地謡座(じうたいざ)
- 謡の方が座りますので地謡座といいます。
- ⑩後座(あとざ)
- 後座といいます。笛柱の方から笛、小鼓、大鼓、太鼓の囃子方が座ります。ここは板を横に張ってあります。
- ⑪階(きざはし)
- 能舞台の正面の階段を「階(きざはし)」といいます。階は昔、寺社奉行が昇り降りして、演技の開始を宣言していたといわれています。現在は演能で使用することはありません。
- ⑫鏡板
- 鏡板は舞台正面奥の大羽目板。大きく老松の絵が描かれている。その向かって右側には若竹の絵が描かれている。
- ⑬三本の松
- 橋掛かりには三本の松があります。それらは、能舞台に近い方から一の松、二の松、三の松と呼ばれます。